2度とごめんだ! 高校時代、日雇い派遣を1度きりで辞めた話

2度とごめんだ! 高校時代、日雇い派遣を1度きりで辞めた話

最近では積極的な宣伝などはあまり見かけなくなったけれど、僕が高校生の頃は日雇い派遣のテレビコマーシャルなどを頻繁に目にした。

どれも「炎天下で汗水たらして働くのって気持ちいい!」という、まるでスポーツドリンクのような爽やかな雰囲気のCMだった。「イケてる学生はみんな日雇いでサクッと稼いでるんですよ」みたな煽り方をしてくるものだから、興味を持つ生徒も多かったのではないかと思う。

当時僕は、新聞配達のアルバイトを辞めたばかりでお金に困っていた。貯金をする余裕なんてなかったし、もっと遊びたかったし欲しい物もたくさんあった。

それで求人情報誌を持ってきては授業中にペラペラとやっていたわけだが、あーでもないこーでもないと中々理想のアルバイト先を見つけられないでいた。

そんな折に友人から話が舞い込んでくる。

[st-kaiwa2]日雇いバイトやってみない? 駅前に事務所があって簡単に登録できるんだって。給料も即日払いらしいよ。[/st-kaiwa2]

[st-kaiwa1]え、本当? 日雇いってよく分からないけど、すぐにお金がもらえるなら行ってみようかなぁ。[/st-kaiwa1]

派遣会社は当時CMとかバンバンやってる有名企業だった。名前も知られているし、何よりふたりで行けるなら安心だ。ということで、僕は彼と事務所に行くことを約束した。

 

派遣会社の事務所に行く

約束日、駅前で落ち合った僕と友人は、汗をぬぐいながら派遣会社の事務所に向かった。

会社事務所に入るなんて初めてのことだったから緊張したけれど、中は学校の職員室と大差ない感じで、思ったより涼しかったので安心した。

事務員に声をかけられたので用件を伝えると、すぐに席に通される。登録用紙みたいな紙を渡されたので、個人情報・希望職種・職業経験などを一通り記入していく。

書き終わると面接のような具合でいくつか質問を受け、最後に仕事を受けてからお金をもらうまでの流れを説明された。気になったのは電話連絡の多さ。

当日家を出るとき、現場に到着したとき、仕事が終わった後……とにかく事あるごとに電話連絡をしないといけないらしい。面倒だなぁと思いつつも、日払いという魅力に目が曇っていた僕は登録を決める。

その際「初回は友人と同じ場所で働かせてもらいたい」と言ったら「それは出来ないですねぇ~、はははは!!」と、やたらと笑われたのを覚えている。

何がそんなに面白かったんだ~!

 

最初の仕事が決まる

数日後に派遣会社からメールが来た。なんでも空きの仕事が見つかったらしく、日時は今週の土曜日9時から、業務は倉庫でのピッキング作業ということだった。

ピッキングってなんだろう。楽器の演奏でもさせられるの? と疑問に思った僕はすぐさま調べる。どうやら倉庫などで行う、荷物を取り出したり分けたりする作業のことらしい。

これなら未経験の僕でもできそうだし、屋内なら暑くもないし! ということで、すぐさま仕事を受けることにした。友人も似たような仕事で決めたらしく、僕は根拠のない安心感を胸に抱きながら、土曜日を待つことにしたのだった。

 

いよいよ仕事当日

ご飯を食べて派遣会社に電話連絡をすると、僕は早朝駅に向かった。時間は6時過ぎ。

仕事自体は9時開始だが、点呼を取ったりバスで現場に向かう都合上、最寄り駅には8時に集まらなければならない。駅までは電車を乗り継いで40分ほどかかるため、余裕をもって早めに家を出た。

持ち物は筆記用具と身分証、服装は動きやすいもの、ということで細かい指定などはなかった。澄んだ空気の中、アルバイト生活の新たな一歩に胸がときめくこともなく、慣れない早起きをしたせいで眠くて仕方ない目をこすりながら、自転車をこぎこぎ駅に向かった。

最寄り駅に到着したのは7:30ごろ。近くのコンビニでお昼ごはんのお握りを3個ほど買い、外に出ると駅前にそれらしい人だかりが。

近寄ってみると、中心にはリーダーらしき男性がいる。よく見ると派遣会社のプレートを下げていたので、間違いないと思った僕は声をかけて名前を伝えた。

列に並ぶよう指示されたので、そのまま待っていると続々と人が集まってくる。若い人が多く、30代くらいのくたびれたような男性が多かった。なんだか殺伐としていてみんな疲れたような顔をしている。CMで目にするような、溌剌とした若者はひとりもいなかった。

やがて全員が集まると、リーダーに率いられて駅前を離れる。5分ほど歩くとバスが見えてきた。どうやらこれで現場に向かうらしく、乗るように指示される。30人くらい乗れそうな大きなバスだったが、中は狭かった。

僕の席は窓際だったので、頬杖を突きながら外を眺めていた。すると、突然「よろしく! どこから来たの?」と声をかけられる。振り向くと、同い年くらいの男が隣に座っていた。白いTシャツにジーンズ姿で髪は短め。体つきがしっかりした、アウトドアな雰囲気の人だった。

あ、溌剌とした人いるじゃん。と思った僕は乗車中、彼と様々な身の上話をした。聞いたところによると、彼は現在定時制の高校に通っていて、昼間は建築関係のアルバイトをしながら、時おり日雇い派遣でも働いている。また小さいころから空手をやっていて(ガタイがいいのにも納得した)、現在はボクシングのプロテストに向けてかなりの特訓をしているそうだった。

初対面の人と話すのは得意ではないけれど、彼とは年齢が近いという事もあって、自然とタメ口で話すことができた。バスの中の鎮痛とした雰囲気に呑まれそうになっていたけれど、彼のおかげでそんな気持ちはすっかり忘れてしまった。

 

倉庫に到着する

バスは10分くらいで到着した。降りると大きな工場のような敷地が広がっていて、一角の会議室のようなところに集められた。再び点呼を取り、仕事場である倉庫に向かう。そこで彼とは別れた。

倉庫は倉庫としか説明のしようがない、ザ•倉庫って感じの倉庫だった。体育館くらいの広さで、壁際にはコンテナがいくつも積み重なっている。中央にはベルトコンベアーが並び、段ボール箱が次々と流れ、周りを何人もの作業員が忙しなく動いている。

そこで社員と思われる人から、ピッキング作業の具体的な手順について説明される。

1,コンベアーから衣類の詰められた箱が流れてくる。

2,それを取り出して、サイズ、色で分けて専用の箱に詰め直す。

3,再びコンベアーに乗せる。

やることはこれだけだった。最後に「質問のある人?」と訊かれたが、口を開くものはいなかった。それを社員も分かっているようで、さっさと各コンベアーに人員の振り分けが始まった。

いよいよ仕事が始まる。疑問の投げかけようがないくらい、シンプルで洗練されている業務とは、物言わぬ歯車になれということだ。僕は指示されるままに、コンベアーの横に立った。

 

仕事が始まった!

とは言っても、本当に上記手順1~3を繰り返すだけなので、書くことがほとんどないのだ。

強いて印象に残っていることを言うと、監視役の女性社員にひとりもの凄い怒り方をする人がいて恐ろしかった。何があったのかは分からないが「お前なんど言わせんだ仕事だと思ってんのか明日まで帰れねぇぞ!!」うんぬんかんぬん、口から機関銃を発射するがごとくまくし立てていて、遠くで叫んでいるにもかかわらず耳に刺さるようだった。

それと隣のラインに配置されたギャルっぽい女の子の服装が、ヒラヒラの付いた裾の長いスカートに、スタッズの付いたボディバッグを斜め掛けし、足元はヒールと言う、深夜の歌舞伎町にでも繰り出すかのような恰好だった。

屈み腰になるたびに前髪を鬱陶しそうにかき上げる姿は、見ているこちらまで動きづらくなってくるようで、僕は視線を逸らすと自分の手元だけに集中することにした。

仕事はすぐに流れ作業と化したが、1度だけサイズを間違えてしまった気がした。コンベアーに乗せた途端、やけに不安感に襲われたのだ。しかし箱を見送ったら最後、中身を確認することはできない。

どうしようか迷ったが、近くに怖い社員しかいなかったため訊くことができず、気のせいだと思うことにして、そのままにしておいた。後から怒られたりもしなかった。

 

お昼休憩の時間になる

折り畳み机が並んだ、会議室のような場所が休憩部屋だった。

僕はロッカーから、駅で買っておいたコンビニおにぎりを取り出すと黙々と食べ始めた。立ちっぱなし、動きっぱなしだったのでかなりお腹が減っていて、おにぎり3個じゃちょっと足りないくらいだったのだけれど、買いに行くのも面倒だったので、食後はひたすら携帯電話を見つめていた。

一瞬、休憩部屋に来たプロテストの彼と視線が合ったのだが、友人と一緒にいるようだったので声をかけることができず、微妙な表情のまま顔をそらしてしまった。彼とはそれきりだ。

10年後、僕はよく分からない身分でキーボードを打ったり写真を撮ったりしているが、彼はプロボクサーになっているのだろうか。町ですれ違っても、お互い分かるわけもないよなぁ~。

 

ようやく仕事が終わる

予定通り17時ぴったりに仕事が終わった。ようやくとか言ったけれど、午後からはほとんど無意識で作業を行っていたため、それほど時間は長く感じなかった。あれこれ考え事をしていたおかげで、時間を気にせずにいられたのが原因だろう。

終わりを聞いた途端に、疲れがどっとあふれてきた。汗でべたべたになったシャツが張り付く感覚がよみがえり、体が信じられないくらい重たく感じた。

倉庫を出る際に、印鑑の押された証明書みたいな紙きれをもらい、それを窓口で提出して給料を受け取った。

本日の汗の結晶、お給料だー! という喜びはなく、ただただ早く帰りたかった。温かいごはんのお風呂につかりながら眠りたいよぉ~、なんてことを考えながら、送迎バスで駅に向かった。

そんなこんなで、家に帰ったのは18時過ぎ。通勤を含めると、実に12時間近く家を空けていたことに! さてさて気になる収入は……。

 

ピッキング作業1日分の給料はいくらだったの!?

6,000円でした!(たぶん端数があったと思うけれど、そこまで覚えていない)

しかし、交通費・弁当代などはなく、なんとか管理費とかいうよく分からない名目で200円くらい引かれていたり、それらを考えると手取り収入は5,000円弱。

8時から拘束されていたと考えると、時給は625円。当時、コンビニの時給でさえ700円前後だったから、日雇い派遣に対する僕のイメージはガラリと変わってしまった。

仕事に行く前

・1日でまとまった額をサクッと稼げる!!

・空いた時間を使って賢く効率的に働ける!!

・活動的な学生に大人気!!

仕事から帰った後

・日払いは助かるけど、コンビニの方が近いし時給も高いしよっぽどいい!

・12時間近くつぶれるうえ、帰ったらへとへとで何もできないで1日が終わる

・見るからに元気のない、セミの抜け殻のような人ばかり

給料や時間のことは、調べておけば自分でも分かったことだし「お金のことは後先考えないと後悔するぞ」というのを学んだ瞬間だった。

そもそも日雇い派遣は一度しか行っていないため、この時の印象だけで語るのもよくないとは思うのだが、半年くらい後に派遣会社が労基法抵触だとかでニュースになっているのを見かけたので、以前から不信感を持つ人も多かったのではと思う。

翌週、さんざん愚痴をこぼした僕たちは、それからしばらくしてかたやスーパーのレジ打ちかたやファミリーレストランの調理、と別々の道を歩んでいくのであった。そこには数々の困難が待ち受けるのだが、それはまた別のお話。

それではまた!

 

 

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