小学生時代の変わった同級生と、知らぬ間に仲間入りしていた僕

小学生時代の変わった同級生と、知らぬ間に仲間入りしていた僕

 

小学生の頃、学年には僕を含めて3人同じ名前の同級生がいた。ここでは分かりやすく “しゅう” としておく。僕がその2人を意識したのは高学年になってからで、友人から「しゅうって奴はみんなおかしいよな」と言われたことがきっかけだった。

元々クラスの違う人間には詳しくなかったし、もしかすると低学年の頃に同じクラスだったのかもしれないが、とにかく名前が一緒の同級生のことをそれまであまり気に留めていなかった。おかしいってどういうこと? みんなってことは僕も含まれているの? そんな不安が沸き上がった僕は、2人のしゅうを観察してみようと思ったのだ。

観察と言っても接点は学校だけだし、授業中は教室から出られないし、せいぜい休憩時間にこっそり彼らの教室を覗いたり、廊下ですれ違いざまにそれとなく眺めたり、そんな程度だ。

1人のしゅうに関しては教室からほとんど出ないうえに、いつも席に座っているのでほとんど情報がつかめなかった。しかしもう1人のしゅうに関しては、確かに変わっているのかもしれない。ということをすぐに感じた。

まず彼は、ほとんどいつも鼻を垂らしている。近所のお爺さんが見かけた日には、はなたれ小僧なんて呼ばずにはいられないような、立派な鼻を垂らしているのだ。

ぬぐおうともすすろうともしないのは、気づいていないのか、かんでもかんでも出てくる鼻水に諦めているのか、それともただティッシュを持っていないのか。持っていないならいないで、誰かに一枚もらうなりトイレでかむなりできそうだが、そうする様子もないのはそれが心地よいからか。

とにかく彼は見ているこっちがぬぐいたくなるほど、立派に鼻を垂らしていた。当初こそ、ティッシュを差し出せないもどかしさを激しく感じていた僕だが、次第に彼の顔の一部のように見慣れてしまった。

彼は顔が濃い。眉が海苔のように濃く太くて、唇が厚くて頬がトマトのように赤い。なんというか全体的にパーツが強調されていて、きらめく鼻水さえ身体組織の一部のようなのだ。

そして動きがやけにのんびり、というかぬぼーっとしている。毎朝学校まで歩いてくる姿が想像できないくらい、席を立ったり歩いたり、そういう動作の一挙一動がひどくゆっくりしている。しかし、そう思って油断していると、落とした鉛筆を拾う動きがやけに俊敏だったりして、期待を裏切られた感に足元をすくわれたような気持ちになる。

友人が彼を変わっている(おかしい)と言った理由もなんとなく分かった。本来ならここで調査終了してもよさそうだが、僕はそれでも止まらなった。友人は「しゅうって奴はみんなおかしい」と言った。

確かに僕は年中鼻をズビズビ鳴らしていたが、垂らしたまま放っておくようなことはしない。しかし友人にひとくくりにされたからには、何らかの共通点を知りたかったのだ。

その日も僕は廊下の隅から彼をこっそり眺めていた。しかし、ボンヤリとしていた彼が唐突にこちらを振り向く。すると、なんとスタスタ歩いて接近してくるではないか。きっと僕の方角に存在する何かに用事があるのだろう。僕は祈るような気持ちで、床を見つめながらじっと気づかないふりをした。

「しゅうさん、体育始まってるみたいだよ」彼は僕の前に立ち止まって、そう言った。間延びした、ぬぼーっとした声で。

話しかけられた! それもさん付けで! そんな衝撃も刹那、僕は振り返って冷や汗をかく。教室にはすでに誰もいなかった。みんなとっくに着替えて、校庭に出ていたのだ。

「あ、ごめん! ありがとうっ!」

とかなんとか、しどろもどろに言いながら、僕は急いで教室に戻った。ボンヤリしていたのは僕の方だった。そして、友人が「みんなおかしい」と言った理由がようやく分かった。

恐らく、そう思っていたのは友人ひとりだけではなかったのかもしれない。授業開始を教えてくれたしゅうも、どこかで僕の噂を聞いて、親近感らしきものを抱いていたから話しかけてくれたのだ。

人のことを気にする以前に、思い返せば僕もよっぽどだった。友人に借りた教科書を、授業中にそれと忘れて落書きしてしまったり、移動教室でひとりだけ池に落ちてずぶ濡れになったり、牛乳(!)を入れた水筒のフタを閉め忘れて、友人のシートを毎回のように汚してしまったり…。

思い返せばまだまだあるけれど、おかしいランキングで言ったら、堂々トップを狙えるだろう。あんまり嬉しくはないけれど。

それからも、友人の口から何度か、彼らしゅうのおかしいエピソードを聞いた。テストでいつもゼロ点、消しゴムを食べた、上履きを持ち帰ったことがない、彫刻刀で間違えて机を掘ってしまった、窓ガラスに突っ込んで腕を縫った、などなど。

友人はきっと、僕がいないところでは僕のエピソードを吹聴しているのだろう。なんせ話題には事欠かなかっただろうから。

授業開始を教えてくれたしゅうとは、以降廊下ですれ違う時などに、ちょっと話すようになった。相変わらず鼻が垂れたままなのは、僕にティッシュを差し出す勇気がなかったからだけれど、それで困る訳でもないから特に触れもしなかった。

いったい何を話していたのか、それは忘れてしまったけれど、僕はそんな小学生時代を経て、今は気まぐれにバイトをしながら、ブログを書きつつ「本を出したい!」とか莫迦みたいな夢を抱いている。

彼は今頃何をしているのかな。同窓会でもない限り、会うことなんてなさそうだ。そもそも僕と彼が出席するかなんて分からないし。教室に居続けた、もうひとりのしゅうに関しては、あまり話しに出せなかったので先に謝っておく。

 

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