モモと三つのお願い事 | 01

モモと三つのお願い事 | 01

「それではグループに分かれて、係の分担を話し合って下さい」
先生の声と共にみんなが一斉に立ち上がると、静かだった教室がバケツをひっくり返したみたいにうるさくなる。私は耳をふさぎたい気持ちを抑えながら、みんなより一歩遅れて立ち上がると、窓際の二班の席に移動した。
「今日ほんとあっちぃよなぁ!」

席に着いたソウマ君が、首元をぱたぱたと仰ぎながら口を開く。
今は教室がざわついているせいで目立たないが、ソウマ君の声はかなり大きい。となりに座っていると、ソウマ君が何か言うたびに驚きそうになる。
「リーダー、計画表ちゃんとやってきたー?」
「また忘れてないでしょうね」

私の向かいに座る、サノちゃんとユリコちゃんが口を開く。
リーダーとはソウマ君のことだ。ソウマ君は二人のいぶかしげな視線をかわしながら、机からファイルを取り出す。
「当たり前だろ! こないだ先生に言われた所も直しておいたぜ」
ソウマ君が机の上にファイルを広げると、すかさず二人がのぞき込む。私は椅子から腰を浮かすと、彼女たちのじゃまにならないように、恐る恐る顔を近づけた。

「あ、ほんとだ。私が言った通りになってる」
「やればできるぅ、リーダー!」
来週の金曜日に遠足が迫っていた。遠足と言っても、隣町の小さな山を登るだけなのだが、お昼ご飯の調理を、班ごとに自分たちで行わなければならない。
ソウマ君が持って来た計画表には、調理手順(私たち二班の場合はカレー)と、各々が持ってくる食材などがまとめられていた。

ソウマ君は最初、この計画表を一人で作った。しかし、カレーの作り方があまりにでたらめだと先生に指摘されたため、料理が趣味だと言うユリコちゃんがアドバイスをして、書き直したのだ。
「先生もこれでいいってさ。ってことで、調理係はユリコにしようと思うんだけど、いいよな?」
「さんせーい!」
サノちゃんが口を開きながら、挙手の真似をする。ソウマ君が問いかけるようにこちらを向く。私は慌てて目を逸らし、うつむきながら小さく頷いた。

「決定だな。五班と六班もカレーらしいから、一番うまいの作るぞ。ユリコ、頼んだ」
「当然でしょ。任せてよ」
先生は教室内をゆっくりと歩きながら、それぞれの班の様子を眺めている。顔も上げずに黙っている私は、どんな風に見えるのだろう。やる気がないと、思われてしまうだろうか。
「でも、この計画表さ……」
「ん? なんか問題あるか」

「字、ちょっと汚すぎない?」
「なんだよ。これでも結構時間かかったんだぜ。文句あるならユリコが書いてくれよ」
「いや、私も自信ないけど……サノは字、うまかったっけ?」
「えー別にそのままでいいじゃん。書き直すなんて面倒だよ」

サノちゃんが頬を膨らましながら、ユリコちゃんを見つめる。やがて、笑いを堪えきれなくなったユリコちゃんが吹き出すと、ソウマ君が呆れたように口を開いた。
「まぁとにかく、あと決めないといけないのは安全係と記録係だよ。どっちがやりたいとかある?」
教室のざわめきが徐々に大きくなっていく。まるで私だけが、無人島に置き去りにされたみたいだ。
「……おーい、ショウコさん?」

唐突に名前を呼ばれ、驚いた私は弾かれたように顔を上げる。目の前に、目をまん丸く開いたサノちゃんの顔があった。
「もしかしてお休み中だった? だめだよ、みんなで話してるのにー!」
サノちゃんが笑い交じりに言う。どうやら、ソウマ君が声をかけたのは私だったらしい。
「あ、わ、私……」
またたく間に顔が熱くなる。まるでヤカンだ。鏡で見たら、きっと頭から湯気が昇っているに違いない。早く今の時間が過ぎ去ってほしい。私の頭はそんな想いで一杯になる。

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結局、残り二つの係分担は決まらなかった。安全係と記録係。私とサノちゃんで分担するだけなのだから、すぐに決まるはずだった。しかし、私はどちらの係につくか選ぶことができなかった。ソウマ君は私の希望を知りたいようだったけれど、自分から言ってしまったら責任が重くなる気がして、口を開く勇気が出なかったのだ。いっそのこと、じゃんけんやクジ引きで決まってしまえば、どちらでもあきらめがついたのに……。

遠足に向けたグループワークはあと一回。未だに係分担が決まっていないのは、たぶん二班だけだ。
「私のせいだよ……」
帰り道。私は友人のマナミちゃんに向かって、力なく呟いた。
「違うよ。そもそも先生がいけないんだよ。班を勝手に決めちゃうから。みんな自由がいいって言ったのに」
「自由がよかったな……」

「そしたら同じ班になれたのにね。ソウマ君とか大丈夫? 嫌なこと言ってきたりしない?」
ソウマ君は男子たちの中心的な存在だ。課外授業で外に出る時も、お昼休みにグラウンドでサッカーをする時も、いつも先頭に立ってみんなを率いている。サノちゃんやユリコちゃんみたいな、お洒落な女子たちとも仲がいい。

つまり、グループ内で私だけが浮いているのだ。マナミちゃんも直接言いはしないが、恐らくそう思っている。
「そんなことないよ。みんな親切だし……」
「そっか。ならいいんだけど」
本当にそうだろうか。三人で私のことを、陰で笑っているのではないだろうか。役立たずだと、呆れているのではないだろうか。

「マナミちゃんはさ、遠足楽しみ?」
「楽しみだよ。最初はどうなるかと思ったけど、今はみんな仲良いし。来週、班のみんなで買い出しに行くんだ」
「……そうなんだ」
マナミちゃんは当初、班のメンバーに対してかなり不満があるようだった。「遠足に行きたくない」とまで言っていたのに、いつのまにか打ち解けてしまったらしい。
私はやっぱりひとりぼっちだ。遠足なんか、なくなってしまえばいいのに。

つづく

 

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