無職時代を振り返る|02

無職時代を振り返る|02

大学卒業時、僕は内定を持っていなかった。当時は学校の近くに一人暮らしをしていて、4年間の生活のうちに第2の故郷のように感じていて、とても気に入っていた。だからアパートを引き払いたくはなかったし、地元に帰りたくもなかった。そこでアルバイトをして生活しようと決めた。

徒歩数分の場所にコンビニエンスストアとワインバーがあったため、両方で面接を受けた。どちらも受かったが、コンビニの方が連絡が早かったのでそちらに決めた。週5日、21時から翌6時までの夜勤、時給は1,100円。

コンビニ夜勤はやることもなく暇。と様々なところで聞いていたから、楽ちんだろうとタカをくくっていたが大間違い。駅からの通りに面していて賑わっているからだろうか、ほっと息をつく暇もないほど忙しかった。

ほぼ毎日、山のように商品が届くし、棚や冷凍スペースは常にギチギチで、配置に気を遣いながら並べなければならない。配送サービスや公共料金の支払いなど、覚えることも多く、ただでさえ暗記が苦手なうえ研修期間も短かかったため、最初のうちは何度もヒヤヒヤした。

忙しかったのは僕の手際が悪いせいもあるのだろうが、一番の原因は来客数に対して店員が少なかったからだと思う。夜はどんなに混んでいても店員は2人。深夜2〜6時の間は1人になる。どちらかが休憩に入っていたり、勤務を終えて帰った後の時間は、客がレジに来るたびに作業を中断しなければならない。

オーナーには「走ってレジに向かえ、商品陳列は必ず両手で行え」と指導された。アルバイトの高校生は皆、家族にまで催事商品(クリスマスケーキや土用丑の日のうなぎ)を買うよう強制され、店長は「夏の忙しい時期は、ドリンク補充のために寝袋を持ってバックヤードに泊まったこともあった」などと自慢げに話すような人だった。

接客には力を入れていたが、店員に対しては情を持たないオーナーだった。今では食傷気味のありきたりなブラックバイト話だが、当時はそんな言葉、まだ聞かなかった気がする。

僕は4ヶ月でそこを辞め転職した。原因は主に3つある。

1つは体調不良。フルタイム夜勤のため、僕の生活は完全に昼夜逆転していた。仕事が終わり、朝6時半に帰宅する。それからご飯を食べたり本を読んだりして、13〜14時くらいに眠りにつき20時に起きて仕事に向かう。

元々眠るのが早かった訳ではないけれど、これほど完全な昼夜逆転は初めてで、四六時中眠気が取れず体はいつもだるく、いつもヘトヘトになりながら仕事を行なっていた。
そのうち体も慣れるだろう。と楽観していたがそうはならず、生活リズムを見直そうとしたり、アイマスクや耳栓を使って少しでも深い眠りにつこうと努力したが無駄だった。

2つは接客。僕は接客が未経験ではなかったし嫌いという訳でもない。むしろ興味のある商品を紹介するときや、お客さんに感謝された時などは、楽しいとさえ思う。しかしそれは、きちんとしたコミニュケーションがあってのこと。
コンビニの場合、接客のほとんどが殺伐としている。それはお客さんの多くが、商品に思い入れなどなく、機能だけを求めて店を利用するからだ。つまりコンビニという店柄、当たり前のことなのだけれど、僕にはその淡々とした接客が苦痛で仕方がなかった。

まず大抵のお客さんは急いでいる。僕は急ぐのが苦手だ。忘れっぽいし、いちいち思い出すのに時間がかかるため、何事もゆっくりとしかできない。単なるレジ打ちだけなら問題はないが、公共料金の支払い、クーポン券の利用、催事商品の予約、宅配サービスなどなど、イレギュラーが舞い込んでくると途端に動きが遅くなる。

それだけなら時間がかかるだけでさしたる問題ではないのだが、お客さんに露骨にイラつかれたり急かされたりすると、気が小さい僕はすぐに頭がホワイトアウトし、普段なら当たり前にできることさえ、全く手につかなくなってしまう。

99%のお客さんはいいお客さんだ。しかし残り1%かそれ以下、面付き合わせているだけで気分が悪くなるような態度の悪い客、背筋がゾワゾワとしてくるような威圧的な客、タバコが買えないことに腹を立てる未成年、などが存在する。ただでさえ人数の少ない深夜帯、僕はそれが嫌で仕方がなかった。しかしそれと同時に、自分の今までの客としての態度を見返すきっかけにもなった。以降、コンビニでもスーパーでも、レシートを渡される際に会釈とお礼を言うように心がけている。

3つは1人になる時間帯があること。今らしい言い方をするとワンオペレーション、これが一番大きな理由かもしれない。深夜2時から6時、店員は僕1人になる。この頃になるとお客さんもまばらで、店内にいるのが僕1人、という状況が多くなる。だからと言って忙しいことに変わりはないのだが、深夜、静まり返った店内(ラジオが流れてはいるが)に1人でいるというのは、想像以上に精神にくる。僕はその言い表しがたい不安感、寂しさに慣れることができなかった。

先述した接客の件も、かなりこの影響が大きいように思う。夜勤だと関わる店員も限られてくる。そして日勤からは「どうせ夜なんてお客さんも少ないし暇でしょ。楽でいいわね」的な視線を向けられる。確かに来客数は少ないが、夜にしかできない業務もあるし、店員数が少ないことを考えれば逆に負担が大きいのではと思う。

退職が近づいたある日、店長が帰宅間際におにぎりを買いながら「ここ1ヶ月くらい、このコンビニでしか買い物してないよ。ありえない職場だよね……」と、愚痴をこぼしていた。
交代した新しい店長だ。その時の疲れ切った顔は今もよく覚えている。まだあのコンビニにいるのだろうか。

ちなみに前の店長はオーナーと揉めてクビになったらしい。退職した翌日、情報交換用の連絡ノートにオーナーが書いたと思われる店長の批判が、1〜2ページに渡って書き連ねられていた。繁忙期に寝泊まりまでして店を維持していた店長。こんな結末になるとは想像していただろうか。

勤務最終日。お世話になった2歳年上の先輩がジュースをおごってくれた。紙パックの乳酸菌飲料だったと思う。ちゃんとお礼も言えないほど、あっさりした別れだった。

無職時代とか言いながら、なかなか無職になる気配がないけれど、もうしばらく続きます。次回は「フリーターから晴れて契約社員。ライン工編」です。

つづく

 

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