ヤモリが部屋にやってきた

ヤモリが部屋にやってきた

 

よく換気をするようになった。空気の入れ替えは自身や家の状態を清潔に保つのに必要だし、寝る前に換気することで睡眠が深くなる、などと聞いたからだ。

しかし部屋の網戸はボロボロだ。大きな穴が開いているせいで、夏の日なんかは小さい蛾や羽虫がよく侵入してくる。防虫剤を設置している影響でゴキブリなどの害虫は侵入してこないが、だからといって虫がやってくるのは気持ちがいいものじゃない。

アースノーマットを焚き忘れた日には、痒くて目が覚めるほど顔面の血を吸われるし、蛾だって触ろうと思えば触れるけれど、できるだけ触りたくないくらいには苦手だからだ。

それなら網戸を修繕するとか買い換えるとかすればいいのだけれど、いくらするのかも分からないし、あんなに大きいものどうやってホームセンターから持って帰ればいいのかも分からないため、腰が鉛のように重たいままなのだ。

そんな訳で放っておいた所、ある日半端に開けていた窓ガラスにヤモリが張り付いていた。お風呂場やキッチンの摺りガラスにも頻繁に現れるから、別段驚きはしなかったのだけれど、近くで見るとなんとこちら側に張り付いているではないか。

これは流石に放ってはおけないと思い、手を伸ばして外に逃がそうとした。しかし眼にも止まらない素早さで指の間をすり抜けられてしまい、机の下に逃げられた。この机というのは木製の、いわゆる勉強机とかいうやつで、でかくて重くて移動するのが死ぬほど面倒なのだ。

つまり、あちらから出てきてくれない限り手を差し伸べることはできない。さてどうするかなぁ~、と思っていた所、窓の下でニョロニョロ動く小さな物体が目に止まった。イモムシか? と思って身構えるが、よく見るとそれはヤモリの尻尾だった。

ヤモリが危機を感じた時、尻尾を切り離すということは小学生の時から知っていた。そして再生するということも。尻尾はピクピクと何かに怯えるように頼りなく動いている。切り離されたばかりの尻尾に出会うことも珍しいので、僕はそれがどのくらいの間動いているか測ってみた。

徐々に動きが鈍くなり完全に停止するまで、15分ほどかかった。指で触れるとそれに応答するような動きを見せることもあって、脳がないのに一体どんな仕組み? と疑問に思ったりもしたが、結局すぐに捨てた。

さて、ヤモリは依然として机の下に逃げ込んだままだ。僕が尻尾を眺めている間もずっと息を潜めていたのだ。せっかくだし育てられないかな? と思った。小さい頃は家で様々な動物を飼っていた。金魚・ザリガニ(匂いがひどい)・ウサギ・ハムスターなどだ。

テキトーな水槽に土などを入れて、適当に水を吹いてペットフードでも入れておけばいけるんじゃ? と思った僕は早速検索してみた。「ヤモリ 飼育」って感じで。すると環境を用意するのはそれほど難しくなさそうだった。

プラケースに入れて、水飲み場を設置して、たぶんカブトムシよりお手軽だ。しかし問題は餌だった。ヤモリは昆虫を食べる。つまりペットショップでコオロギやミルワームを飼ってこないといけないのだが、何よりのハードルが「生きた」状態の昆虫しか食べないということ。

つまり、生き餌を買ってヤモリと一緒に飼育しないといけないのだ。昆虫が大の苦手な僕はこの一点で諦めて、そのうち逃げ出すでしょ。と捕まえるのも諦めて放置することにした。

一週間後、掃除機をかけてクイックルワイパーで机の下を漁っていると、やけに硬いホコリの塊が取れた。手にとってみると、それは干からびてカチンコチンになったヤモリの姿だった。

尻尾は生え変わっておらず、瞬間冷凍されたみたいに這い回る姿で固まっていた。ずっと机の下に居たなんて。僕は少々悪い気もしたが、さっさと燃えるゴミに捨てた。

僕が違いが分からない男なのは、下記の記事で述べたとおりだ。

エレベーターとエスカレーター? うつ伏せと仰向け? 2つの違いがどうしても覚えられないこと

だから今回部屋にやってきたのが、ヤモリなのかイモリなのか、それともカナヘビと呼ばれる物なのかもよく分かっていない。

爬虫類は少年を魅了する。小学校5年生の頃、友人が「ヤモリげっとぉ~!」と言いながら僕の首に乗せてきたことがあった。しかもそのタイミングでヤモリがウンコをした。お調子者の彼も流石にやってしまった、と感じたらしくそれからしばらくの間気まずくなったのを思い出した。

 

 

エッセイカテゴリの最新記事